●アニョー・パスカル2015年07月30日
アニョー・パスカル Agneau pascal
キリストの復活を祝うイースターはフランス語で「パーク」。この時期にアルザス地方で食べられるお菓子が“復活祭の仔羊”=“アニョー・パスカル”である。神への“いけにえ”である仔羊を象徴しているというが、見た目が素っ気ない地方菓子の中で、その姿のかわいらしさは群を抜いている。
生地は卵黄と卵白の別立て式で、くせのないやさしい風味。アルザス地方スフレンハイム村名産の厚手の陶器でつくられた型は、顔の表情や毛並みまで細かく表現されており、仔羊の頭から尻尾へタテ二つに分かれる形である。これを大きな金具ではさむように留めて逆さにし、中に生地を流して、焼けたら再び金具をはずすと型が左右に分かれて仔羊が現れる。粉糖がふられ、首にリボンを巻いた仔羊たちが、お菓子屋やパン屋にずらりと並びだすと、寒いアルザスにもいよいよ春の到来だ。
○用語・人名解説
復活祭 Pâque
日本では英語の「イースター」でなじまれているが、年によって変わる“移動祝日”であり、①春分後の、②最初の満月を過ぎた、③一回目の日曜日、となっている。「アニョー・パスカル」はアルザスのものだが、フランス全土では生命の再生を象徴する“卵”をモチーフにしたお菓子が街をにぎわす。代表的なものは卵形のチョコレート。一般的には子どもたちのためのものだが、美しく包装されたり、大きな卵の中から小さな卵がいくつも出てきたりと、さまざまに趣向が凝らされ、大小色とりどりの卵が飾られるウィンドーには思わず足がとまる。
ノリエット 永井紀之
厚手の陶器を通じてやわらかく伝わる熱で生まれる、羊らしいやさしい焼き色と食感。ジャムなどを添えて食べてもおいしい。